小児皮膚科疾患

乳児湿疹

乳児における様々な皮膚トラブルの総称を乳児湿疹と言います。代表的な疾患として、新生児ざ瘡・乳児脂漏性皮膚炎(乳児脂漏性湿疹)・皮脂欠乏症・皮脂欠乏性湿疹・接触性皮膚炎(おむつかぶれ・よだれかぶれ)などがあります。

新生児ざ瘡

新生児にできるにきびを新生児ざ瘡と言います。新生児のおよそ20%に見られるほど、発症頻度が高く、特に男の子に多く見られます。生後2週間頃に発症しますが、生後数か月で自然になくなることが多いです。これは、母体のホルモンが赤ちゃんに移行することで新生児の皮脂分泌が盛んになることが原因として考えられており、またマラセチアという皮膚の常在菌なども関与しているとされています。

治療

清潔に保つことが大切です。毎日の入浴時には、せっけんをよく泡立てて優しく洗い、しっかりとすすぎ、そっと拭きます。スキンケアを丁寧に行うことで、半月程度で症状が改善します。当院では、新生児や小さいお子さんのスキンケアの方法など、丁寧に指導しております。お子さんのお肌でお悩みや不安なことがありましたら、お気軽に当院にご相談ください。

乳児脂漏性皮膚炎(乳児脂漏性湿疹)

胎児期に母体から受けたホルモンの影響によって、新生児期の皮脂分泌は非常に盛んとされます。また、マラセチアという皮膚の常在菌の関与が指摘されています。黄色いかさぶたに似た痂皮が現れます。

症状と治療

顔・頭・首・脇の下など皮脂分泌の多いところに、黄色くて脂っぽい痂皮が生じます。瘡蓋状でウロコのように付くことがあるため、心配になりますがほとんどの場合は適切にケアすることで改善します。1日1回、入浴前にワセリンやオリーブオイルを痂皮に塗布し、そのまま30分ほど放置すると、痂皮が柔らかくなります。石鹸をよく泡立ててしっかりと洗ったあとよく流したらそっと拭き取ります。以上のようなスキンケアを2カ月ほど続けることで症状が改善します。必要に応じて、ステロイド軟膏を用いて治療を行います。スキンケアに関する不安がある場合は、当院までお気軽にご相談ください。

汗疹(あせも)

汗疹には、白いブツブツが出来るタイプと、赤い炎症を生じるタイプがあります。白いブツブツは、汗を出すエクリン汗腺が詰まって汗が溜まるのが原因で、赤い炎症は塩分やアンモニアなど汗の成分に長時間接触することで皮膚が炎症を起こします。治療の対象になるのは、赤い炎症のタイプで、正式には接触性皮膚炎と呼ばれます。皮膚のバリア機能が低下するアトピー性皮膚炎や乾燥肌のお子さんは、汗疹になりやすいとされています。

症状と治療

赤いブツブツと痒み・痛みのある紅色汗疹・白っぽい水ぶくれのような水晶様汗疹など、様々な皮膚症状が起こります。額や生え際・首・背中・オムツで蒸れる部分などにできやすいとされています。特別な検査は必要なく、発疹のタイプと発症している部位の視診だけで診断が可能です。症状を改善するには、皮膚が汗に触れる時間を可能な限り減らすことが大切です。そのほか、こまめに汗を拭く・洗い流す・こまめに着替える・着すぎて汗をかかないようにするなどが重要です。皮膚の痒みが強い場合・掻きむしりが酷い場合・治りが遅い場合は、ステロイド外用薬を用いて治療します。また、治りが悪い湿疹の場合は、真菌性皮膚炎(カビによる湿疹)を疑います。汗疹は繰り返し症状が現れることがあるため、治療で治ってからも予防し続けることが大切です。

皮脂欠乏症・皮脂欠乏性湿疹

生後半年以降になると、母体から受けたホルモンの影響を受けて過剰になった皮脂分泌が急激に減少します。そのため、乾燥による皮膚トラブル、湿疹などが起こりやすくなります。皮膚の乾燥は痒みを誘発し、特に乳幼児のお子さんは我慢ができず皮膚を掻きむしってしまいます。掻きむしると皮膚バリアが破壊され、そこから食物アレルギーや花粉症などのアレルゲンが侵入してしまい、アレルギー体質を獲得してしまうと考えられています。乾燥肌自体は重篤なものではありませんが、アレルギーを誘発することがあるため、なるべく早めに治療することが大切です。

症状と治療

皮膚の乾燥によってバリア機能が低下しているため、部屋の湿度を保ち、適切なスキンケアを行うなどして乾燥を避けます。保湿効果が高いヘパリン類似物質を処方されて安心される方も多いですが、それだけで十分とされることは少ないです。入浴の方法や軟膏の塗り方・種類・夜中の掻きむしり対策など、ご家庭での保湿方法など、それぞれの生活様式に応じたスキンケア指導を行います。痒みが長く続く場合は、アトピー性皮膚炎が疑われるため、早めに受診してください。

おむつかぶれ

皮膚に残った便や尿成分によって、皮膚がかぶれた状態がおむつかぶれです。よだれかぶれ同様に接触性皮膚炎です。

症状と治療

皮膚がかぶれることで、赤み・痛み・痒みの症状が見られます。悪化すると、皮膚がただれてびらんを生じ、出血することもあります。診断は、これらの症状を観察するだけでできます。治療は、正しいスキンケアを行い、ワセリンや亜鉛華単軟膏を塗布することが中心となります。なお、炎症が強くてびらんを生じている場合は、ステロイド含有の軟膏を用いた治療を行います。改善が見られない場合は、カンジダ皮膚炎が疑われます。便や尿が触れない部位にまで炎症が及んでいる場合は、カンジダ皮膚炎が疑われます。カンジダ皮膚炎はカンジダという真菌(カビ)によって起こる皮膚炎で、抗真菌薬軟膏(カビの除菌薬)を用いないと改善しないので、適切な診断と治療が大切です。

尋常性ざ瘡(にきび)

通常のにきびで、毛穴の中でも脂腺性毛包が塞がることで炎症を起こした状態です。アクネ菌が原因で炎症を起こします。

症状と治療

にきびには、炎症のない白にきびと、炎症を起こしている赤にきび・黄にきびに分類されます。赤にきびとは炎症によって赤くなったにきびで、黄にきびは化膿して膿が溜まっているにきびです。主な治療は、抗菌外用剤・角化異常や皮脂分泌を整える薬剤や抗菌作用のある薬剤を使って行います。にきびの治療は時間を要することが多いですが、色素沈着や凸凹を残さないためにも、丁寧にしっかりと治療をしましょう。

伝染性膿痂疹(とびひ)

細菌が湿疹や小さな傷に接触して感染し、掻くことで全身に飛び火のように広がることから、とびひと呼ばれています。主な原因は、黄色ブドウ球菌・A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)とされています。昨今は、多剤耐性菌が増えているので注意が必要です。

症状と治療

黄色ブドウ球菌によるとびひは、水疱性膿痂疹を引き起こし、べっとりとした汚い湿疹となることがあります。悪化すると、火傷のような状態になり、入院治療を要することもあります。また、溶連菌によるとびひは、膿が溜まって瘡蓋(かさぶた)が分厚くなる痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)となります。

症状を観察するだけで、だいたいの場合は診断できますが、症状が酷い場合やなかなか治らない場合は、細菌培養検査や血液検査を行います。

軽度であれば、自然治癒しますが、とびひして湿疹が拡がらないように皮膚を保護することが大切です。昨今では耐性菌が大部分を占めるために抗菌薬の軟膏は効果が薄く、スキンケアなどの保存的治療を行い、必要に応じて抗生物質を内服します。

アトピー性皮膚炎

特定のアレルゲンが皮膚に直接作用し、慢性的な皮膚の炎症を引き起こす疾患がアトピー性皮膚炎です。アレルギー反応によって、皮膚に猛烈な痒みが生じて掻きむしってしまいます。また、掻きむしることで皮膚のバリア機能が低下して、アレルゲンや細菌による刺激に反応しやすくなり、再び掻きむしるという悪循環に陥り、慢性化してしまうとされています。アレルゲンとして挙げられるのは、花粉・ダニ・カビ・ホコリ・ハウスダスト・ペットの毛・フケ・食べ物・唾液などです。さらに、間接的にはストレスや睡眠不足・偏食などから免疫バランスを大きく崩してしまうことも原因となります。

症状と治療

アレルギー反応から掻きむしることで、バリア機能が低下してアレルゲンによる刺激に敏感になるといった悪循環を断ち切って、炎症を早期に鎮めて痒みを抑えることが治療において重要です。特に、乳児の皮膚再生能力は非常に優れているため、炎症・痒みを抑えて、しっかりとスキンケアを行うことで、皮膚のバリア機能は早期に回復していきます。 しかし、アトピー性皮膚炎は、再燃しやすい疾患のため、症状が改善して落ち着いている時も皮膚の保湿は徹底して行うことが大切です。日常生活におけるアレルゲンの除去は常に欠かせません。食物アレルギーを合併している場合は、食事指導も必須です。治療においては、即効性のあるステロイド外用薬は非常に有効ですが、止めるとすぐに再燃します。さらに、長期間のステロイド剤使用は、副作用の観点からは問題があるとされています。ステロイド剤を上手に活用して、改善していくことがポイントとなります。当院では、お子さん1人ひとりの状況に適した治療法やスキンケア法、湿疹指導に力を入れています。アトピー性皮膚炎に関する疑問や心配なことがありましたら、お気軽にご相談ください。

スキンケアについて

よく泡立てた石鹸で、優しく肌を洗います。しっかりと水ですすいだあとは、保湿剤を十分に塗ってください。これがスキンケアの基本です。皮膚を清潔に保ち、保湿を行うことで、皮膚のバリア機能が回復して痒みが生じにくくなります。お子さんの場合は、爪を清潔に短く保つことも大切です。また、乳幼児など小さいお子さんには、日焼け止め・虫よけ・汗やよだれ対策を行うことも重要です。場合によっては、ワセリンで皮膚を保護することも有効です。当院では、スキンケアの指導と専門の治療を行っております。お気軽にご相談ください。

入浴時の注意点

低刺激のボディーソープ、または泡立てた石鹸などを使って、手のひらで優しく洗います。特に、脇や耳・首・肘の内側・ひざ裏など、湿疹の出やすい部分・しわになる部分を優しく丁寧に洗います。また、石鹸をしっかりと洗い流すことも大事です。少しでも石鹸の成分が皮膚に残ってしまうと、そこから湿疹が悪化してしまいます。入浴後は、優しく拭いて、たっぷりと保湿剤を塗ります。

保湿剤を塗る時の注意点

保湿剤の量は、年齢や体格によって異なります。ヘパリン類似物質などが処方されることが多いですが、保険診療内では処方可能な量が決まっているため、使用中に不足することがあります。この場合、市販のもので代用できますが、小さいお子さんはかぶれてしまうこともあります。お子さんに合った市販薬を上手に組み合わせることをお勧めしています。

蕁麻疹(じんましん)

痒みを伴う一過性の膨疹(ふくらみのある発疹)が生じますが、そのほとんどが数十分から数時間で自然に消えます。蕁麻疹は、原因がはっきりと分かる刺激誘発型と、原因が分からない特発性に分類されます。刺激誘発型では、食べものや寒さ・圧迫・こすれ・熱・汗などが原因で蕁麻疹が現れます。なんらかの疾患が原因の場合もあるため、蕁麻疹の症状が繰り返される場合は、正確な診断が必要です。

また、食物アレルギーによるアナフィラキシーショックの初期症状の場合もあるため、蕁麻疹の症状に加えて咳や呼吸のしづらさ・腹痛があるときは急激に重症化する恐れがあるため、注意が必要です。

治療

問診と症状から診断します。原因が特定できる場合は、その原因を除去し、接触を避けます。原因が特定できない場合でも、およそ75%が発症後1週間以内には改善するとされています。広範囲の蕁麻疹や、痒みが強い蕁麻疹の場合は、抗ヒスタミン剤内服薬を処方します。軽度の場合は、冷やすだけでも症状が緩和することがありますが、なかなか症状が改善しにくい場合は、早めに医療機関を受診してください。

伝染性軟属腫(水いぼ)

伝染性軟属腫ウイルス感染によって皮膚に光沢のあるいぼを形成する疾患です。ヒトからヒトに接触感染で広がると言われていて、肌の接触だけではなく、物を介するなど間接的な接触でも感染します。免疫が未熟な未就学児によく見られます。

症状と治療

痒みを伴う、光沢のあるいぼが生じます。1~5mmほどの大きさで、いぼ内にウイルスが存在するために、掻きむしると周囲のお子さんにも感染させてしまいます。免疫が未熟な未就学児に多く見られ、成長とともにウイルスに対する免疫ができ、半年~5年ほどで自然に治癒します。アトピー性皮膚炎のように、皮膚のバリア機能が低下している場合は、水いぼが起きやすく、さらに悪化して多発することが多くあります。治療については、医師による見立てや考え方が異なることが多く、例えば小児科医は経過観察をする傾向が高く、皮膚科医は積極的に患部を摘出する傾向にあります。水いぼを治療するかどうかは、お子さんの症状や状況によって決める必要があります。

いちご状血管腫(乳児血管腫)

生後間もない赤ちゃんに見られるあざですが、生後数週間~1カ月は平坦な赤いあざであり、その後は徐々に隆起します。この病態がまるでいちごのように見えることからいちご状血管腫と呼ばれています。未熟な毛細血管が増殖する良性腫瘍であり、成長とともに自然に消えるので心配はいりません。男の子よりも女の子に発症する頻度が高いのも特徴です。

症状と治療

生後2週間頃に現れ、そのあと、数週間後~5カ月頃に急激に大きくなるのが特徴とされます。毛細血管拡張や皮膚萎縮・瘢痕・皮膚のたるみとなって残りやすいとされますが、およそ90%以上は7歳くらいまでに赤みが薄くなって目立たなくなります。基本的には、自然退縮を待ちますが、目立つ場所・気になる場所にあざがある場合は、ヘマンジオルシロップを用いた薬物治療を検討します。

虫刺され・虫による皮膚炎について

虫の種類によって、症状が異なります。蚊に刺された場合は、強い痒みと赤い腫れ・水疱などが現れます。ハチやムカデの場合は、強い痛みと赤い腫れが特徴です。この場合、炎症や痛みなど症状が強い場合は、激しく掻きむしることでとびひを引き起こしてしまいます。さらに、ハチやムカデは嘔吐・蕁麻疹・呼吸困難など重度のアレルギー反応を起こす恐れがあります。虫に刺されで少しでも何かおかしいなと感じた場合は、速やかに当院を受診してください。

治療

炎症が強い場合は、抗ヒスタミン剤・ステロイド内服薬を処方します。強い痒みがある場合は、ステロイド外用薬が有効です。
ハチやムカデに刺された場合は、冷やすことで痛みを緩和することができます。受診までの間は、保冷剤で冷やしながら来院してください。
虫よけスプレーを使用する場合、主成分がディードのものは、生後6カ月未満のお子さんには使用できません。年齢や回数に制限がないためイカリジン15%濃度のものをお勧めします。市販の虫よけを買う場合は、薬剤師に相談しながら購入するようにしてください。

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